月夜見 
残夏のころ」その後 編

    “台風も来るけど、なでしこ おめでとー!”


まだまだ夏の初めだというに、
随分と大きめの台風が太平洋上から接近中とのことで。
しかも、
この時期の夏台風にはありがちな 迷走っぽくないままの北上。
六月の末からこっち、連日のように猛暑日が続いてた、
いっそ恨めしいくらい晴天続きだった天候も、
西の方からどんどんと崩れつつあったのだけれど。
そんな湿気たっぷりの風が、時折ばふっと強めに吹きつける中、
それでも早い時分から白むようになってた明け方に、
あちこちのご家庭から、
ほぼ同時に“わーっ”という歓声や拍手が
漏れ聞こえてたのが印象的だったよなと。
外回りの皆様が語る、そのお顔もなかなかに晴れやかで。

 「畑にラジオ持ち出してたお宅もあってさ。」
 「そうそう。」
 「収穫のバイトのお兄ちゃんとか、ついつい手が止まっててさ。」

産直スーパー“レッドクリフ”は、
近隣の小規模農家の朝どり野菜を 新鮮なままお届けというのが目玉なので、
搬入班のおじさんやお兄さんたちは朝が特に忙しいのだが。
例の不祥事以降、久方ぶりに始まった大相撲の本場所も楽しみながら、
それ以上に話題にしておいでだったのが、女子サッカーのW杯。
準々決勝で
開催国にして強豪のドイツを負かした辺りから騒いでる
そんな 俄かな世間なんか比じゃあない、
こちとら予選の段階から注目してんだという顔触れも多く。

 『…そーか。
  それで ○○さんチのミズナの総束数が合わない日があったんだな。』
 『いや、それとこれとは……。//////』

決して響かせてはいませんてと、
こんな日にもそりゃあ冷静な、副店長からの容赦ない睨みに、
あわわとたじろいでたお人も何人かいたようではあったれど。
(こらこら)

 『それが一番降りそそいでたんは、シャンクスだしな。』
 『悪いかよ。//////////』

だってFWの▽▽ちゃんが可愛ゆーてvvと。
甥っ子からの指摘にも一向にめげぬまま、
指を組んだ両手を頬にあてがい、
へへへぇと笑うところが大物なんだか、
………単なる女好きなんだか。
(苦笑)


  そうして そして


 「……………………、先輩。」
 「うにゃ〜〜〜。」


微妙な前のめり、
首なんてそのまま折れそうなほど前に倒されていての、
それでも何とか起きてはいる…らしいお人が。
青果売り場のテント下、
風に吹かれてゆらゆらと立っており。
ここんとこびみょーな意味合いから (ぷくくvv) 仲良しな
1歳上だが後輩という搬入担当のお友達が話し掛けても、
どこかピントが合わぬままというのがまた、
珍しいことだったらありゃしないので。
自然と周囲からの視線も集まってる始末。

 「…俺、何かで読んだことあるぞ。」
 「何がだ。」
 「二足歩行ロボットの原理の基本は、
  転びかかるときに反射で足が出て体を支えようとする動作ってのを、
  確か 応用してるんだと。」

おおお、何かアカデミックな話題を
やり取りしている顔触れがおいでのようですが。
集荷して来た新鮮野菜の数々、
見栄えもいいようディスプレイしつつ、
それも落ち着いて来たからだろう。
連休とあって朝からの当番で出て来たはずの、
高校生バイトのルフィくんが、
見るからに寝不足でございますという様なのへ、

 「それって、
  こいつみたいに居眠りしてた研究員を見て思いついたのかもな。」

褒められたこっちゃないぞとばかりに眉を下げつつ、
でもでも“しょーがねぇなー”レベルの苦笑で収めてしまうところが、
そこは このマスコットさんのやんちゃっぷりに慣れている皆様だから。
とはいえ、
このままお仕事をさせるには、
お客様にもお店にも、支障がありまくりでもあろうから、

 「“仮死状態”に仕事させるほど
  こちとら困っちゃいねぇやね、てやんでぃ。」

展示物扱いで取り巻いていた輪の中、
胸元へ腕を組んでの苦笑が絶えないでいた店長様が、そんなお言いようをし。

 「何ですか、その言いようって。」

さすがにそれはなかろうと、素早く物申すしてくれたのが、
やっぱり頼もしい副店長様で。

 「そもそも、寝過ごして見逃したら困ると言ってたとはいえ、
  じゃあ一緒に観ようななんて言って、
  ここの事務所へ連れ込んで、今朝方ずっと付き合わせてたの誰ですか。」

 「おうよ、そのお陰さんで決定的歴史的瞬間は総て余さず観られたぞ?」

俺も沈没しかかった瞬間は何度もあったが、
それより先にこっくりこっくり舟漕いでやがるもんだから、
笑いが止まらなかったぜと。
だっはっはっはと、
威勢よく笑い飛ばした赤毛の叔父さま。
いい年齢にも関わらずスタミナが上だったか、
それともこんな健康的な仕事を生業にしているくせに、
実は不良中年で、その本領を発揮し、
宵っ張りなところを生かしたものか。

 「つか、昼間寝てるもんな。」
 「うんうん。」
 「昨日も寝ダメだっつって、昼飯どき跨いで6時間は寝てたし。」

こそこそぼそぼそ、従業員の皆様が取り沙汰する中、

 「というワケだから、そこの剣豪、坊主を事務所へ連行な?」
 「はあ。」

よだれくってやがるくせに
“職場に戻るんだ”とか、ワケ判らん駄々こねるようなら、
店長命令だからって言い聞かせて、家まで送ってやってくれな?と。
その店長様直々、指差しつつの文字通りご指名されたは、
やはる輪の中にいた、短髪頭の搬入班の剣道青年だったりし。

 「…???」

え?え?え?と、
急な話の流れへキョトンとしているばかりな保護担当へは、

 「何だったら軽トラ使っていいぞ。」
 「あ・そうそう、兄ちゃんもサッカー観てたか?」
 「無理に話を合わせると、却って怒る坊主だから気ィつけるんだぞ?」

周囲のおじさまがたも、
どういう方向でか頑張れよと肩を叩いて励ましてくださる次第。
そういや、先だって“様子が変”だったルフィさんだったの、
ちゃんと見てらした皆様なので。
仲よしなのは善きこと哉との 和やかなお顔にて、
ゆらんゆらんと覚束ない様子で立っている小さな坊やが、
気にしておいでのお兄さん、
どうか仲良くしてやってと後押しするのも、
容易な反応であるらしい。

 「頼んだぞ?」
 「はい…。」

時々、妙にチームワークがよくなる不思議なお店。
最近は“それ”が、この坊やへ関することに集中していること、
気づいているお人は、果たしてどのくらいおいでやら。
店舗エリアでは厳禁な咥え煙草、
火を点けかけての幌の下から離れた副店長と、
くあぁああ〜〜〜っと大欠伸をなさった赤毛の店長さんの笑い方が、
微妙に 似たよなそれだったのは、
ちょっぴり眠たげな声で鳴き始めた蝉だけが、
見ていたようでございましたが……。


  何はともあれ、


  興奮と感動をありがとう、
  そして世界一おめでとう! なでしこジャパン!




  〜Fine〜  11.07.18.


  *ナミさんのBD記念話も書かんで…ですが、
   でもでも 何か書くと思ったでしょ?
(笑)
   世界大会と来れば…で、恒例ですもんねvv
   天上の海か、大川の子ゾロルヒか、
   結構迷ったのですが……。
   ちなみに、観戦記は
日記の方をご参照くださいvv

ご感想はこちらvv めーるふぉーむvv

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